キッチンをそろそろ変えたい。そう思ってカタログを開いたものの、扉の色に天板の素材、収納の形まで、決めるところが多すぎて手が止まってしまう。ショールームへ足を運んでも、どれもきれいだったという感想だけを持ち帰ってきた。そんな経験はないでしょうか。
キッチンには、あとから変えられるところと、工事のときに決めてしまうと戻せないところがあります。そして迷いやすいのは、戻せないほうではなく見た目のほうです。順番が逆になると、住み始めてから効いてくる部分が置き去りになってしまいます。
この記事では、住宅設備建材メーカーでハウスメーカーやリフォーム会社への商品提案と提案書づくりを担当している立場から、キッチンで先に決めるべきところと、10年後に差が出る仕様の見方をお伝えします。特定の会社や商品を勧めることはいたしません。
直美さん ショールームに行ったのですが、どれもきれいで違いが分かりませんでした。何を基準に選べばよいのでしょうか。
ナビ 見た目より先に、天板の高さを確かめてみてください。ここだけはあとから変えられませんし、毎日の疲れ方が変わってきます。
- 決めるところが多すぎる
- 天板の素材で迷っている
- 収納の形が選べない
- 見た目以外の基準がない
- 10年後に困らないか不安
キッチンで先に決める3つ

結論からお伝えします。キッチン選びは、あとから変えられないところから決めてください。天板の高さ、本体の奥行き、そして組み込む機器の位置。この3つは工事のときに決まってしまい、住み始めてから直すには壁や床に手を入れることになります。扉の色や取っ手を選ぶのは、そのあとで間に合います。
天板の高さ
まず確かめてほしいのが、天板の高さです。目安は身長の半分に5センチを足した数字になります。身長158センチの方なら84センチ前後ということです。多くの商品で、80センチから90センチまで5センチ刻みで選べるようになっています。
たった5センチと思われるかもしれません。けれども、包丁を使う時間が長い方ほど、この差は腰にそのまま出ます。低すぎれば前かがみになり、高すぎれば肩が上がる。毎日くり返す姿勢なので、じわじわと効いてくるのです。
気をつけたいのは、いま使っているキッチンの高さが体に合っているとは限らない点です。築年数の古い住まいでは、80センチや85センチが当たり前でした。慣れているだけかもしれませんので、まずはご自宅の数字を測ってから判断してください。
本体の奥行きと通路幅
次に見るのが奥行きです。ここで知っておいていただきたいことがあります。いまは各社とも65センチが標準ですが、昔のキッチンは60センチが標準でした。つまり、同じ場所に入れ替えるだけでも、手前に5センチ出てくることがあるのです。
作業台が広くなるのはありがたいのですが、そのぶん背面の収納との通路は狭くなります。通路の目安は、一人で使うなら90センチ前後、二人で並ぶなら120センチ前後とされています。ご家族と一緒に立つことがあるなら、引き出しを開けた状態ですれ違えるかどうかまで想像してみてください。
ですから、まずはお使いのキッチンの奥行きと、背面収納までの距離をメジャーで測ってみてください。その2つの数字を持ってショールームへ行けば、話が一気に具体的になります。図面が手元になくても、数字があるだけで提案の精度は変わってきます。深くなった5センチで何が変わるのかは、奥行き65センチは使いにくいかでくわしく書いています。
- いまの天板の高さ
- 背面収納までの通路幅
- いまの本体の幅と奥行き
- 冷蔵庫の大きさ
組み込む機器の位置
三つめは、食洗機やオーブンといった組み込み機器の位置です。これらは本体の中に収めるため、扉と引き出しの割り付けが機器の位置で決まります。あとから足そうとすると、収納をひとつ潰して入れ替える工事になってしまうのです。
いまは使わないけれど、いずれ欲しくなるかもしれない。そういう場合は、その見通しを担当者に伝えておいてください。将来入れられる配置にしておく、という考え方で図面を描いてもらえることがあります。
電気と給排水の位置も同じ話になります。機器が増えれば配線や配管が要ります。工事が終わってから気づくと、せっかく仕上げた壁や床を開け直すことになりかねません。

10年後に差が出る仕様

先に決める3つが固まったら、次は仕様の中身です。ここで見ていただきたいのは、いまの使いやすさではなく10年後の使いやすさになります。キッチンは20年近く使う設備です。買うときの体と、使い続けた先の体は同じではありません。天板、レンジフード、そして手の届く範囲。この3つで見ていきます。
天板は最新の性能で見る
天板の素材は、ステンレスと人造大理石が主流です。ここで一つ、気をつけていただきたいことがあります。人造大理石は熱に弱いという古い知識のまま選ばないでください。
各社とも素材の改良が進んでおり、熱い鍋を直接置いても跡が残りにくい商品が増えてきました。10年前の評判と、いま売られている商品の性能は別ものです。カタログには耐熱や汚れにくさの欄がありますので、そこを見て判断してください。
提案書をつくる立場から申し上げると、この部分はいちばん古い情報が残りやすいところです。ご親族や知人の体験談は参考になりますが、素材そのものの評価だけは最新のカタログで確かめ直す値打ちがあります。
レンジフードは洗う回数で選ぶ
レンジフードは、掃除の手間がはっきり差になって出る部分です。最近は内部のお手入れを長い期間しなくてよい商品に人気が集まっており、10年や15年という数字を掲げているものもあります。ファンに油汚れが付きにくい形にしたり、汚れをはじく加工をしたりといった工夫によるものです。
ただし、ここは読み方に注意が要ります。お手入れ不要とあっても、手前の整流板やオイルトレーは拭く必要があります。不要になるのは、多くの場合いちばん奥にあるファンの部分です。何がどこまで不要なのかは、必ず担当者に聞いてください。
台所の掃除が丸ごといらなくなるわけではありません。それでも、脚立に乗ってファンを外す作業が減るのは、十年単位で見れば大きな違いになります。
手を伸ばさず使える工夫
もう一つ、見落とされやすい点をお伝えします。レンジフードのスイッチは本体の前面にあり、手を上へ伸ばして押す形が一般的です。いまは何でもない動作かもしれませんが、10年先も同じように腕が上がるとは限りません。
そこで知っておいていただきたいのが、加熱機器と連動して動くレンジフードです。ガスやIHで火を入れると自動で運転が始まり、消したあと少ししてから止まります。スイッチへ手を伸ばす動作そのものがなくなるので、日々の作業はずいぶん楽になるでしょう。
引き出しも同じ考え方で見てください。奥まで引き出せる形なら、奥のものを取るのに身を乗り出さずに済みます。奥まで出ない引き出しは、奥が死蔵になります。しゃがんで手を突っ込む動作は、年を重ねるほど負担になっていくからです。
ショールームで確かめる順番

仕様の見方が分かったら、ショールームで実物に当たります。大事なのは順番です。展示を見て回るのではなく、自分の体を動かして確かめると決めて出かけてください。きれいだったという感想だけを持ち帰らないために、試す動作を3つに絞ります。
包丁と鍋の動作を試す
最初にやるのは、天板の前に立つことです。眺めるのではなく立ちます。そして包丁を持ったつもりで、肘の高さを確かめてみてください。肩が上がるようなら高すぎ、前かがみになるようなら低すぎということになります。
包丁だけで終わらせないのが大事なところです。鍋を振る動作、お玉で鍋の中をかき混ぜる動作まで試してください。包丁は台の上での作業ですが、鍋を扱うときは手の位置がそれより高くなります。同じ高さでも、動作によって楽かどうかは変わってくるのです。
このとき、普段台所で履いているものに近い履物で行くとよいでしょう。スリッパの厚みだけで1センチほど変わります。展示品は高さの違うものが並んでいますので、担当者に頼んで何種類か試させてもらってください。
いちばん奥に手を伸ばす
次は収納です。引き出しをいちばん下まで引いて、奥に手を入れてみましょう。体を大きく折らずに奥のものがつかめるかどうか。ここで無理があれば、住んでからは使わない場所になっていきます。
レンジフードのスイッチにも手を伸ばしてみてください。背伸びが必要かどうかを、その場で体に覚えさせておくことです。加熱機器と連動する商品があるかどうかも、このときに聞いておくと話が早く進みます。
扉と排水口は実物で見る
最後に、目についた扉と引き出しをひととおり開け閉めします。閉まる直前に静かに引き込まれるか、途中で引っかからないか。動きの質は写真では分かりませんので、ここだけは必ず手で確かめてください。
そしてもう一か所、ふたを外して中まで確認していただきたいのが、シンクの排水口です。毎日の手入れで皆さんが嫌いな場所は、レンジフードとシンクの排水口になります。昔の排水口はぬめりの出やすい排水トラップのある形状でしたが、いまは排水トラップのない形状の排水口が多くなりました。各社のカタログにも書かれてはいるのですが、ここは実物を見るのがいちばん分かりやすい部分です。手入れが簡単になることをその場で実感できますし、メーカーごとに形も違いますので、ぜひ見比べてみてください。
展示品で試せることは、遠慮せずに頼んでかまいません。そのために置かれている場所だからです。毎日の暮らしが少し軽くなること。それもリフォームの醍醐味だと思います。ぜひその場で体感してきましょう。

キッチン選びのよくある質問

ここからは、キッチン選びで寄せられることの多い疑問をまとめました。ショールームでは聞きにくい内容もあるかと思います。気になる項目だけ読んでいただいてかまいません。
天板はどちらを選ぶべきか
ステンレスと人造大理石は、どちらが優れているというものではありません。傷や汚れの出方と、見た目の好みで選ぶ部分です。どちらも性能は年々上がっていますので、いま手元にあるカタログの数値で比べてください。
食洗機はあとから付くか
組み込み式は、収納をひとつ潰して入れ替える工事になります。できますが、手間も費用もかかります。付ける可能性があるなら、最初の図面の段階で伝えておくほうが確実です。すでにある食洗機だけの交換はこちらです。
ガスとIHはどちらがよいか
調理の好みと掃除の手間の、どちらを重く見るかで変わります。天板を拭くだけで済むのはIH、鍋を選ばず火加減が目で見えるのはガスです。IHを選ぶ場合は、家全体の電気の容量が足りるかどうかを確かめる必要があります。
工事は何日くらいかかるか
入れ替えだけなら数日で終わることが多いようです。床や壁の張り替えを伴えば、その分だけ延びていきます。水道とガスが止まる日が必ず出ますので、食事の段取りまで含めて日程を聞いておきましょう。
扉の色はいつ決めるか
先に決める3つが固まってからで間に合います。扉の色は種類が多く、ここから入ると迷って前に進まなくなりがちです。高さと寸法と機器の位置が決まったあと、最後の楽しみとして選んでください。
まとめ

キッチン選びは、見た目から入ると迷います。あとから変えられないところから決める。天板の高さ、本体の奥行き、組み込む機器の位置。この3つが固まってしまえば、残りは選ぶ楽しみの部分です。
- 変えられない順に決める
- 天板は身長の半分に5センチ
- いまの奥行きは65センチが標準
- 機器の位置は図面の段階で伝える
- 人造大理石は性能が上がった
- お手入れ不要の範囲を聞く
- 連動フードで手間が減る
- 包丁だけでなく鍋の動作も試す
- 排水口はふたを外して見る
- 扉の色は最後でよい
そしてもう一つ。10年先の自分の体で使えるかという視点を、どこかに置いておいてください。手を伸ばさずに済む工夫や、掃除の回数が減る仕様は、選んでいるときには地味に映ります。けれども、その地味な差こそが毎日を軽くしてくれるものです。
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